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観劇、LIVE覚書

シレンとラギ  20120512

劇団☆新感線2012春興行/いのうえ歌舞伎 シレンとラギ

梅田芸術劇場メインホール
2012.05/12

演出:いのうえひでのり
作:中島かずき

ラギ:藤原竜也
シレン永作博美
ゴダイ将軍:高橋克実
ギセン将軍:三宅弘城
シンデン:北村有起哉
ミサギ:石橋杏奈
劇団☆新感線


それは人を殺める宿命のもとに生まれた女。
20年前、愛の毒によって南の王を亡きものにした暗殺者。
その名を、シレン
そして若さと自信に満ちあふれ、何者をも畏れぬ男。
自らの力を信じ、一途に突き進む若武者。
その名を、ラギ。

野望渦巻く北の都でふたりは出会い、暗殺者の醒めた眼差しに、ラギは心魅かれた。
だが、仕留めたとばかり思っていた南の王は生きていた。
急遽、南へ向かうシレン。そしてラギ。
その若い憧れは、いつしかシレンの凍えた心をも溶かす、温か愛へと変わっていった。(パンフレットより抜粋)


前回、髑髏城が小栗旬で今回シレンとラギが藤原竜也か〜。と、ちょっとイケメン使い過ぎじゃないと思いながらも楽しみにしていた今作。
公開されている粗筋や今までの作品を顧みて、ちょっと切ない系のラブストーリーを予想していたら見事に良い意味で裏切られた。
重い。とにかく重い!えっ?そんな・・・って事実がタマネギの皮剥くみたいにべろんべろん展開されていく。
そして後には何も残らなかった。なんてことがないのが新感線だしいのうえさん中島さん!
いのうえ歌舞伎の醍醐味はやっぱり大がかりなセットと渋い音楽かなと思うんですが。今回も令に違わず壮大で、始まったとたんにやられました。
回転舞台!部屋の中と外になったり、そのまま場面が変わったり。色々と顔を変えて回転するセットの上を役者が歩くだけで時間が流れ、景色が変わる。
要所要所でさらっと見栄を切る永作さんがかっこいいったらないし、その度に入るキンという効果音も痺れる。
なにより、OPの「今からはじめんぞ!」っていうあの曲が流れると期待にニヤニヤが抑えられなくなるし。タイトルコールではもう、始まったばっかりだって言うのにここが芝居の真骨頂とばかりに目頭が熱くなってぼーっとしてしまう。
今回、一階最後列にもかかわらず、舞台正面だったおかげで照明や装置の効果を存分に味わうことが出来た。
役者さんの表情が見える前方ももちろん楽しいけれど、自分はやっぱりこうして引いた場所で全体を楽しむのが好きだなと何度目にもなる確認。
圧倒されたまま、次回、五右衛門ロックへの期待と、サイケデリックペインの先行流してしまったことを後悔しつつ電車に揺られました。


以下、粗筋を追いながらの何となく感想〜。

ゴダイ将軍の過去シーンで、いきなり教祖様が信者を殴る蹴るして人は椅子呼ばわりしたあと、「俺に座れ。ただし座ったらコロス」と言い放ち、さらに脅える信者にお前達は神の椅子だ、俺は神の代行者だ、だからお前達に座るのは俺だけだ。
神の重い思いを背中に乗せるお前達の事を、俺は想っている。愛していると。それ何段論法だと突っ込みたくなるような、冷静な人間なら決して嵌らない口八丁を言い放ったときは、空恐ろしく、高橋さんの迫力に圧されてしまいました。
ムチを振るって、でも俺はお前達を愛してるんだよ、だからこんな事を言うんだよ。とアメを与え。最期に餓えた人々に粥を与える。
どこぞの国ではアメなど与えてはくれませんでしょうが、古来日本でもどこの国でも使われてきた技法なんだろうな。すっごく原始的なんだけど、効果は覿面です。
こんな感じで南の国はゴダイ将軍の独裁によって成り立っている宗教国家。
そのゴダイに見初められ、ナナイと名付けられ寵愛されたのがシレン
シレンは三年をかけてゴダイを毒殺し、暗殺者としての使命を果たしたのです。

シレンとラギが属する北の国は王制政治国家。
前王がなくなり、息子のギセンが後を継ぎましたがこれがかなりのうつけ。それにつけ込んで国を乗っ取ろうとするモロナオ一派。
物語はこのギセン将軍に送り込まれた暗殺者の一騒動から始まります。
暗殺者を仕留めたのは旅から戻ったシレン。ラギは憧れの存在だったシレンの登場にはしゃぎ、あれこれ話しかけるけど、まーシレンはそっけない。この時のラギがいぬっころみたいでかわいかったです。年齢設定などはないのだけど、逆算してハタチそこそこ。それで倍も年が違うシレンに惚れるんだから、シレンの美貌やいかに(笑)
ラギの父親、侍組(だったかな?)の頭キョウゴク(古田新太)がシレンが20年前暗殺したゴダイ将軍が生きている事を告げられ、狼狽えるシレン
生きていたのか息を吹き返したのか。どちらにしても仕留め損ねた
汚名を返上するために再び南へ行くようけしかけるキョウゴクとモロナオ。
後でわかるんですが、キョウゴクとモロナオは昔南の国でゴダイと共にいたようなんですよね。決別した理由はそれぞれ。北の国でのこの二人は腹の探り合い&持ちつ持たれつの関係のようだけど。どうにもこの物語の人間関係は複雑で説明しにくいです。
ともかく、南へ赴くことになったシレンとラギ。
そしてここで登場する、ラギの妹ミサギ。シレンとは違うタイプの儚げな美少女ですが、このミサギがまた度を超えた兄LOVE!
彼女の一途ずぎる兄への想いも、やがて物語へ深く関わってくるのです。

南の国についたシレンとラギ。潜伏していた密偵と落ち合う約束ですが、賑わう市場で「ナナイ」が指名手配になっていることを知ります。慌ててその場を離れる二人。
それまで凛としていたシレンが南に行くってなった途端弱腰になったり、ここでもかなり動揺したりと、一体過去にこの国で何があったのかなと想像がふくらむのが楽しい。
そしてそして。ここで登場、ヒトイヌオ!!!河野さん・・・河野さんいい役もらったねってこれいい役なのかなぁって疑問もあるけどかなりおいしい役所でした。
ヒトイヌとは、息を吹き返して腑抜けになったゴダイが「人は椅子だ」を「人は犬だ」と言い間違え。それをショウニンが「人は犬になれる可能性もある」とかなんとか苦しい言い訳を考えついて「人犬の令」が発令。犬になる権利をもらって諜報活動をしているという設定です。
犬の着ぐるみで四足歩行をするヒトイヌオ。シレンに犬笛で呼ばれる度、ぜいぜい言ってました。用もなく呼ばれて「おれ、四足歩行だから」ってキレるシーンは新感線だなってクスってしてしまった。そんでこのヒトイヌオが時々町の路地裏で二足歩行になる度、ハードボイルドな曲が流れて照明が赤紫セクシーに変わるのも楽しい。この後のヒトイヌオは最期までシレンをサポートしてたし、うん、やっぱりおいしい役だ。

ヒトイヌオと合流して南の国の現状を聞いたシレンとラギ。
生き返ったものの人前にはあまり姿を現さないというゴダイに、シレンはそれならと指名手配になっているナナイの存在を逆手にとってヒトイヌオに通報するように頼みます。
ナナイとして宮殿に上がるシレンとラギ。ラギはシレンの従者という設定です。
そこで明かされたのは、20年前、ナナイ(シレン)がゴダイの子を産み、その子を取り上げられ殺されたという衝撃の内容でした。
正妻のモンレイは彼女を憎み、暴かれたくない過去を次々浴びせかけます。唯一彼女に好意的なシンデンがかろうじて助け船を出してくれますが、シレンとラギの間に流れる不穏な空気。
ここで、殺されたシレンの子はミサギなのかなって思ったのが、後の衝撃を更に大きくしました。ミサギの美しさを讃え、溺愛しているキョウゴクのセリフがトリックだったのか私が単純すぎたのかはさておきですが。
そしてここでまた大きく話がうねります。ひとまずゴダイと謁見して話が進むのかなと思いきや、シレンに与えた部屋に夜襲をかけるショウニン。彼はモンレイと愛人関係にあるのでゴダイに正気を取り戻して欲しくはないのです。
けれど夜襲をかけたのをラギに邪魔され、さらにラギに思いを寄せる(と言うと綺麗な言い方だけど、ぶっちゃけ肉体関係を迫る)五代の娘、マシキに追い払われます。
さらに、今宵一夜の潮干狩りと迫るマシキにラギは思いつきでゴダイの寝所に案内するようにもちかけますが、それはシレンによって阻止されます。
シレンに辛い思いをさせず、かつ手柄もとりたいラギの気持ちと、同情は軽蔑と同じだとその気持ちを拒絶するシレン
狼蘭族の彼女は、愛することと殺すことは同義で、ゴダイの愛人をやっている間は本気で彼を愛していたのだと告白しますが、ラギはそんなのは間違っているとこれまた彼女の生き方を否定します。
使命のために子供まで産むなんてどうかしてると彼女を責めるラギの心のうちは、初恋の人で憧れの存在である彼女を汚された怒りと、それを受け入れている彼女への怒りがあったんじゃないかな。この辺り、パンフでシンデンに指摘されているようにラギ童貞説かかなり色濃いかなと。だって、どう見積もっても三十後半で処女はないでしょう。でもラギは性的な欲望を彼女に抱きつつもそれを己で否定して、彼女を神聖視していた気がする。
彼が彼女を生身の女「シレン」として認識したのは、この時なのかも知れない。

一難去ってまた一難。ショウニンとマシキを追い払ったと思ったら、今度はモンレイとシンデンが現れます。
実は北の国でも動きがあり、モロナオ一派に裏切られ、国を追われたキョウゴク達が、昔なじみの南の国の武将ダイナンに誘われ、南の国へ来ていたのです。
しかし南の国だってタダで敵国の人間を受け入れるわけにはいきませんから、キョウゴクはシレンとラギを売ったんですね。
ラギにとって父の裏切りは、仄かにキョウゴクに想いを寄せていた節のあるシレンへの申し訳なさ?みたいなものも混じってかなり複雑。比べてシレンは割とサックリそれを受け入れていたのが対照的で、二人の人としての大きさとか強さの違いを感じた。
父と刃を交えるも、かなわないラギ。追い詰められた二人とキョウゴク達の騒ぎの中に現れたゴダイ。
ここで邂逅かと思わせたところで、シレンが毒煙で追っ手を躱しました。


もう、この辺りでかなり人間関係がぐちゃぐちゃしてるなぁ。
私、一瞬ここで休憩はいると思ったもんな・・・続いたよ。一幕、かなり長い上にかなりヘビィなんです。
シレンとラギの主軸の裏に、キョウゴクとミサギの伏線や他キャラの思惑やらが絡み合って、もー大変なんだもん。
キョウゴクはモロナオ一派に追い詰められているところを南のダイナンに助けられ。ダメになったゴダイを討って俺とお前で国を作ろうと持ちかけるし。キョウゴクを討ち損ねたモロナオはギセンの叔父のギチョクをけしかけて王を討って自分が北の国を治めようとするわ。うつけだと思っていたギセンは虫の標本を壊されて怒りに激変、実はキョウゴク仕込みでかなり強かった(しかもちょっと狂った感じの強さ)なんて設定まで飛び出て、もう、盛りすぎ!
でも、こんだけ盛っても話の軸がぶれないのは・・・さすが。と手を打つしかない感じ。
あと、じゅんさんと新太さんが同じ板に乗ると、どうしてもこのネタは入るのかと問いたくなる、乙女じゅん(笑)
一方的に熱い想いをよせるじゅんダイナンを冷たくあしらう新太キョウゴクがもうおっかしくておかしてく。ホモっけ見せたダイナンに引いてはけていく部下や、ダイナンに迫られているキョウゴクに、「見てはいけません」とミサギを庇ってはけていくアカイ達。
二人きりになった板の上で繰り広げられるミラクルチャーミーな展開には笑わずにはいられない。どんなシリアスなシーン(殺陣とか)でもダイナンがキョウゴクの近くによると、そこに小さな笑いが落ちていてたまんない。


さて。無事に逃げおおせたシレンとラギは、ヒトイヌオから物資やら情報やらを得て浜辺の小屋に身を隠していました。(波の落としてたから勝手に浜辺だと思っている・・・)
ここで爆発するラギの情熱。知ってしまったシレンの過去、父の裏切り。それで、彼女を守るのは僕だーー!ついでに彼女をものにするのも僕だー!っと思っちゃったんでしょうね。
狼蘭族とはどうゆうもんか、そこで生きてきた自分に人を愛する□はない。暗殺者に愛はないとラギの腕を逃れる彼女を、自分が貴方を変えてみせる、今日の偶然が永遠になるようにずっと側にいると見事に口説き落とします。そして褥を共にする二人。ここで、ラギをちょっと青いなと思いながらも、一応ハッピーになれるのかなと期待した私がバカでした。ええ、バカでした。
幸せそうに朝の時間を過ごす二人の元へ、キョウゴク達に動きがあったことをヒトイヌオが知らせに来ます。
ゴダイを連れて花見に行くらしいと情報を得たシレン。これは罠だと知りながら、それなら誘いに乗ってやろうじゃないかと戦闘準備。ヒトイヌオにこれきりで、危なくなったら逃げるんだよと言い置いてラギと二人、再び敵地へと向かいます。

花見の場所ではゴダイを取り巻いてキョウゴク一派とゴダイ一派で睨み合い。ここでゴダイの首を討ち取って、キョウゴクと国を作るんだと息巻くダイナンと、王を守ろうとするシンデン。
そこにシレン達が現れ、現場は大混乱。
けれどここでだれも彼もの番狂わせ。ゴダイが正気に戻るのです。いや、戻っていたのを隠していた、その仮面を脱ぎ捨てました。
それもこれもナナイに再び会うためだったのですが、そこでゴダイに刀をむけるラギを必死に止め、ラギが20年前殺されたゴダイとナナイの子だったと激白。
実はゴダイに命じられたシンデンが、こっそり生まれた子をキョウゴクに預け。キョウゴクは息子としてそれを育てていたというのです。実はその事もシンデンはキョウゴクと再会するまで知らなかったようで、この辺り、シンデンがどこまで本気で生まれた子を守ろうとしていたのかなってちょっと疑問があったりもしますが、そんなの関係ない(古)
キョウゴクはなんかザマーミロみたいな感じだし、ゴダイはこれがあの時の子かと既に後継を決めた面持ち。モンレイはヒステリックになっているし、シンデンは悲痛な雰囲気ながらも「オレ忠臣」て思ってるのが見て取れる。
でも、ショックを受けているのはこの二人。シレンとラギです。だって・・・愛し合っちゃったんだもん。
これには私もびっくりでした。今までの新感線でこんなのなかった。相容れぬ想いや理想に苦しむ恋人達はいたけれど、こんなタブー取り入れた事ってなかったんじゃないかな?
二人がみせる衝撃の大きさに、間に何があったかを悟ったゴダイが「畜生道に落ちたか」とあざ笑い。動転したまま狂ったように刃を振るうラギ。
ラギを捨て駒にするために育てていたって言うキョウゴクも、親子で愛し合った二人を笑うゴダイも、その種を蒔いてしまったことに苦悩している風のシンデンも、ほんと自分の事しか考えてないんだなって思った。それは劇中でも度々指摘されていることだけど、なんか、もう、刀を振り回してシレンを庇うラギが痛くて見ていられなかった。
動揺する二人に勝ち目はなく、追い詰められたシレンは崖っぷちから転落。その縁にしがみつき、叫ぶラギ。

急速展開に息を呑む内に一幕終了。
え、待って。いや、待って。ちょっと待って。のリフレイン。
休憩中、ぽかーんとして一幕整理しようとするも、できるかい!っていう。
盛りすぎ・・・!しかも、重いのばっかり!!
ちょっと落ち着こうっていのうえセンセと中島センセのインタビュー読んで、突っ込みまくったよ。
中島センセ、フォーゼの反動が来るかと思ったけどそうでもなかった。って、きてるよ!反動確実に来てるよ!!!
近親相姦ネタだけでなく、シレンとラギ、ゴダイとナナイの性的な描写も今まで新感線ではあまりないこゆさだったよ!客席に小学生がいて「大丈夫なのかしら」ってちょっと心配になったよ!
二幕でシレンが苦悶するシーンもかなりこゆい、っていうか、私には受け入れられるえげつなさのギリギリライン。
変な言い方だけど、大人の新感線だった。人間ベッドとかもう・・・あの小学生大丈夫かなー。


二幕は、一幕のあの終わり方でどうくるんだろってドキドキ。
北の国では意外と強かったギセンの隙をすこうとするものの、中々上手くいかないモロナオがキリキリしている。そこに、南の国が攻め入ってきたと報告がはいります。
アイシアイ、コロシアイ、サゲスメ、とトチ狂った宗*団体にありがちなイッちゃった事を唱和しながら進行する南の信者と教祖ロクダイ
シレンが崖に落ちた後、今度はラギとゴダイが殺し合いになり、父を殺してようやくこの世の入り口に立つんだとかよくわかんないことをほざくゴダイを討ち取って、ラギがロクダイを襲名。信者達はゴダイの遺言アイシアイコロシアイサゲスメを唱えラギを崇めます

そんな事望んじゃなかったはずのラギも、愛する片割れを見つけてコロシアイ、血の道を作れとかいって信者を煽るし。その信者の中にミサギがいて、兄を兄と呼ばなくてよくなったことにますます愛が加熱。そして、そんなミサギを娘としてではなく女として愛していたキョウゴクの思いまで暴かれていって、タブーのオンパレード。
新しい国を作ってミサギを女王にするつもりだったとか言い出すから、めっちゃびっくりした。それで、ミサギが自分の方を向かないのに頭にきて、ミサギのことは諦めてとにかく二人で国を作ろうと諭すダイナンの首を取り、その首を手土産に再び北へ下ろうとします。
なんてーか。野望はあれど、このお話の中で純粋だったのってダイナンかも。シンデンも野望とかもたず、ゴダイ至上主義で、その後はロクダイ(ラギ)を支えて南の国の繁栄をのぞんでいたけれど、この人、そうゆう自分に酔ってる節があるもんな。それならまだ野望を持って国とりをしようってただその事だけ考えていたダイナンの方がより純粋な気がする。

熱狂する信者は死ぬのも畏れず進行し、それに不安を抱いたシンゲンがロクダイに進言するも言葉は届かず。従えないならこの教団を去れと命じられ、とうとう南の教団を去るシンゲン。
もうなんかどーなんのーって思ってたら、案の定生きていたシレンが出てきた。
ここの、シレンの悪夢がもうぐっちゃぐちゃで。グロテスクで、さきも書いたけど受容できるギリギリラインだった〜。大股かっぴらいてラギを自分の腹に押し戻すとか、もう、セックス出産受胎って、一瞬シレンのお腹にラギの子が?って勘違いしてしまったわ。
シレンを助けたのはゴダイの正妻モンレイと娘のマシキ。
ロクダイに国を追われ、落ちぶれた彼女たちはシレンを切り札に返り咲きを狙っているけれど、その演技がコミカルで、お米の入った粥をシレンに与え、自分たちは木の根をしゃぶって生きてるのよ!とか、もう、一挙手一投足がおかしくてしかたない。
聖子さんのシリアスと笑いの演技って、どちらもテンションが一緒なのがすごい。すごくシリアスな内容で、中々客席も息を抜けないんだけど、ヒトイヌオとダイナンキョウゴク、そしてモンレイ&マシキのシーンでかなり救われた〜。
そしてそんな二人を尻目に、ちゃっかり見ていないところでヒトイヌオに肉やら情報やらを調達させてしれっと普通に栄養とってるシレンの図太さ。憔悴して何も喉を通りませんとかなりそうなのに、彼女は食べて、悪夢にうなされながらも寝て、それでも生きているのがすごい。
そんな三人の元にやってきたのはシンゲン。彼は、シレンにロクダイに会って落とし前をつけろという。自分の理想としていたゴダイの国家を無茶苦茶にしたのはシレンだからと言うけれど、それはシンゲンの見た夢であって、シレンがゴダイの側にいたからって何かが正常に機能したわけではないと思う。けれど自分の理想を壊されたシンゲンはシレンにその責をぜんぶおっかぶせちゃうんだ。正当な理由のようだけど、それってどうなんだろ。こうゆうのを見ると、正論は正義ではなくなるし、どこに正しさがあるのか分からなくなるなって思う。
シレンはただ囚われていたのは行く道を決めるのが怖かっただけで、シンゲンの登場で覚悟を決め、ロクダイの元に。
彼女に去られるともう手のなくなるモンレイとマキシは必死で止めるけど叶わず。それならいっそ殺せと言うモンレイに、シレンがこれを飲みなさいと毒薬を匂わせて渡したのは実はトウガラシ玉だったっていうオチ。
この作品の唯一希望のあるシーンで、とても好き。
プライドもなにもかもかなぐり捨てて、生きてやると力強く未来を向く親子にほんと救われた。

侵攻を続けるラギの前に現れたシレン
貴方の好きな血の道を作ればきっと現れると信じていたと言うラギはまだ狂ってはいなかったと思う。ラギは、あの真実を知らされたときからもの凄いバランス感覚で狂気と正気の狭間に立って、状況を計算していたんじゃないかな。シレンと再会した時に、初めて狂気の側に一歩踏み出した気がする。
あれだけ愛し合うことは殺し合うこととは別だとシレンを説いたラギなのに、そのラギが愛し合うために殺し合おうと言う。
剣を交える二人の、剣戟の一瞬に閃光が走る。こうゆう演出がたまらない。ちょうど正面に当たるところだったので、眩さがよりリアルで、ゾクゾクした。
斬り合う二人にどうなるんだろうと見つめていると、突然爆薬が落とされ、毒が降り注ぎ、信者達が次々と倒れていった。
驚き狼狽える二人の前に現れたのはキョウゴクとギセン。
キョウゴクもまた、手に入らないミサギの愛に狂気に足を踏み入れちゃったんだね。毒で殺した綺麗なミサギをロウで固めて自分の側に置くと言い放つキョウゴク。
信者達を殺されて嘆き悲しむラギ。同じ死ぬのでも、こんな意味のない死を彼らにさせるつもりはなかったって言うけれど、アイシアイコロシアエってのも相当酷いと思います。
次々と打ち込まれる毒の爆弾。南の国はこれで終わりだと笑うキョウゴクに斬りかかるラギ。
それまでラギはキョウゴクには今一歩敵わなかったのだけど、皮肉にも実の父ゴダイを斬ったことで力を得たラギ。今度はキョウゴクを討ち取ります。
けれど止まない毒の爆弾。絶望したラギはシレンに早く殺して欲しいと願いますが、キョウゴクとの戦闘の合間に何かに気付いたシレンは、ラギにその血を流すなら別の事に使え。と斬りつけたラギの血をミサギに含ませます。
解毒効果のあるシレンの血を受けてか、それともシレンと交わったからか。ラギの血もまた解毒効果を得ていて、ミサギが息を吹き返す。他の信者も次々と・・・
まだ希望はある。まだするべき事がある。共に来いと手をさしのべるシレンに、「それは母として、それとも女として?」と問うラギ。
「人として」と、確りとラギの顔を見て頷くシレンに、隣に並び血の道を行くラギ。
巻き上がる真っ赤な血しぶきに、高まる音楽。
ハッピーエンドじゃない、けれど、決してバッドエンドでもない。
キョウゴクが死んだことで、ギセン将軍も王なんてばかげた役を降り、自由に生きることを選んだ。南の王ももういない。
二つの国が滅んで、また混沌とした時間が始まって、一つになるのか、また分裂していくのか、シレンとラギはどうなるんだろうとか、色々想像するけれど、どれも決めてに欠けるので考えるのは放棄した。