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観劇、LIVE覚書

韓国オリジナルミュージカル パルレ  20120520

韓国オリジナルミュージカル パルレ

作/作詞/演出:チュ・ミンジュ
作曲/編曲:ミン・チァンホン
プロデューサー:チェ・セヨン
総合プロデューサー:イ・ジホ<日本版スタッフ>
共同演出:鈴木孝宏
上演台本/歌詞:保坂磨里子
ステージング/演出助手:真田慶子
企画制作:ピュアーマリー


ソウルのとある路地裏の長屋に引っ越してきた27才のナヨンは、故郷を離れ、書店勤めをしている。
ナヨンは洗濯物を干しに上がった屋上で、隣の長屋に暮らすモンゴル人の青年ソロンゴと出会う。
最初はぎこちない挨拶で始まった二人だったが、風に飛ばされた洗濯物が縁でお互いの純粋な姿を知るようになり、少しずつ距離を縮めていく・・・

ソウルに長年暮らす大家さん、ナヨンと同じ長屋に住む出戻りシングルのヒジョンちゃんママ、ヒジョンちゃんママの恋人くーさん、ナヨンが働く書店のパン社長、ソロンゴの友人でフィリピン人のマイケル。。。
二人を取り巻く人々も、それぞれ辛く苦しい境遇にありながら強く逞しく生きていた。。。
(パンフレットより)


韓国ソウルにある演劇の街テハンノから発信された小劇場ミュージカル。
わざわざ「小劇場」とつくだけあって、内容は大衆演劇に近い印象をうけました。
大型ミュージカルの華やかさや仕掛けはないけれど、それだけに舞台の上の人達の暮らしが身近に感じられて、舞台見るならどちらかというと破天荒で派手な方が好きなんですが、これはなんかほんと、すんなり観れた。
群像劇っぽいものが好きなのもあるかもしれない。
小説や映画だとナレーションが入ったりしてキャラクターが多くても観やすくなってるけど、舞台となると群像劇はなんとなく難しいなんて思ってたのは間違いでした。
これは脚本や演出がいいんだろうな。
会話の中からその人がどんな暮らしをしているのかがわかるし、少々説明っぽい台詞があってもくどくないから気にならない。
何より、キャラクターの一人一人が、みんな温かい。
信じられないことに、主役のナヨンとソロンゴ意外はみんな一人何役もこなして回しているんだから、これもすごい!

引っ越してきたばかりのナヨンに水道代だ家賃だなんだとクドクドきつく言いつける大家のおばさんは最初すごく嫌な人だなって感じたけど、彼女にも障害を持つ娘を一人で介護している事情があったり、かと思ったら、大家と仲悪そうにしていたヒジョンちゃんママがお金の事情とは別の所ですごく大家さんを助けて優しくして、大家さんもママの事を心配して助言したり世話を焼いたり・・・しまいには、仕事でへたってしまったナヨンを二人して元気づけたりと、とにかく、人の情みたいなものがバンバン伝わってきて、ジーンとしてしまった。
ナヨンの先輩が社長に意見して会社をクビになるくだりとか、もう、なんか身につまされて泣いちゃった。先輩をかばったナヨンが倉庫にとばされて、やけ酒飲んで落ち込むところも涙が出た。
働いていると経験する嫌なこと、損なこと、屈辱や疑問や憤懣。そんな私が感じてどうしようもなくて溜め込んでいるものを、ナヨンも感じて苦しんでいるのを見て、みんな同じなんだなって思った。
それでも生きてくんだなって。

ソロンゴも、韓国語を勉強しながら一生懸命働いていたのに、ビザが切れちゃって不法滞在になったり、工場が経営状態悪いからってお給料二ヶ月も三ヶ月ももらえなかったり。ソロンゴの長屋の大家さんは外国人が嫌いなのか、ソロンゴのことを名前じゃなくて「モンゴル」って呼んで差別して、挙げ句暴力ふるって長屋から追い出そうとしたり。
昭和初めとか戦後にありそうな光景だと思ったけど、今だってきっとある事なんだよね。
それでもソロンゴはビザが切れているから警察に行けない。不法滞在で捕まって国に返されたら、ソロンゴからの仕送りを待っている家族が困るから。

そんな切なさや苦しさを、大家さんやママはパルレで洗い流してしまえってナヨンを励ますんです。
あの歌が始まった瞬間、もう涙が止まらなかった。
それまで暗かった舞台がぱーっと明るくなって、シャボン玉がぶわわわわって。
舞台上いっぱいに、一番前で見てたから、私の所にもシャボン玉が飛んできて何だか嬉しかった。
洗濯物を大きく広げて明るく歌う三人に、私の心も洗われたみたい。
泣きたいときは泣きたいだけ泣けばいいって大家さんのセリフが滲みた。自分をかわいそがって泣くのは嫌だって意地はっちゃうけど、悔しいときや悲しいときはやっぱり泣いてもいいよね。
ただ、ナヨンみたいにそれに気付いてくれる人がいないと、やっぱり救いは少ないかなと思うけど。

ナヨンとソロンゴ、それぞれ一人だった二人が、二人になっていく様子もなんだかくすぐったくて、ふんわりあったかい気持ちになれた。
最初はソロンゴの事を警戒していたナヨンが、飛ばされた下着(キャミソール?)をソロンゴに拾ってもらったことが切っ掛けで距離が近づいていくんだけど、その時の様子がすっごくおかしかった。
自分の洗濯干し場に落ちてるキャミソールを「おお?」って感じで自分にあててる所を見られたソロンゴが、慌ててジェスチャーで「風に飛ばされて、落ちてた」ってナヨンに必死に訴えるのがおかしくて。それで嫌われたと思ってしょんぼり部屋に戻ったら、疑って悪いと思ったのか「モンゴルからきたんでしたっけ」ってナヨンに話しかけられてすっ飛んで戻ってくるんだもん。
なんか、すごーくいいキャラですこの二人。ラブコメ大好き!ロマンスよりコメディでしょう(^▽^)

ソロンゴがナヨンと初めて会った時もかわいかったな。
向かいの屋上で洗濯物を干し始めたナヨンにドキッとして、ランニングにジャージ姿なのを恥ずかしがって干したばかりのべちょべちょのシャツ着て、それで突然「モンゴルからきました」だもん。
そりゃナヨンもひく・・・警戒するよねf^_^;
でもあの「ソロンゴ」って自分の名前を連呼したのは、大家さんに「モンゴル」って呼ばれてたからなのかなって思うのは勘ぐり過ぎかなぁ。うん、勘ぐりすぎだ。あれはただの自分アピールだわ。

とにかくこの二人がかわいくて、最後は同棲することになって、他のみんなも何となく丸く収まってたんだけど、結婚までいくといいなぁ。
それまで「好き」しか言わなかった二人が、最後ソロンゴが小さなブーケ持って来て「愛してます」って言ったのもすごくステキだった。
いいなぁ、あんな恋がしたいなぁ。って思うには少々トウがたちすぎたなぁ。

ミュージカルなのでもちろんバンバン歌うんだけど、個人の気持ちというよりは、みんなが抱えている問題を一人の人が歌っているって感じがしたのは、ナヨンを自分目線に落として見ていたからかな。
周りで泣いてる人、パット見た感じ皆さんお勤めしてらっしゃる年代の方が多かったから、みんな色々あるんだな−なんて思ったんだけど。
通勤バスの歌も、ソロンゴを虐めていた大家さんの言い分も、何となく分かるんだよね。
外国人が入ってきて、韓国人の働くところがなくなった。って、まんま今の日本の現状にもあてはまる。
でも、それは自分が努力を怠ってたり、高望みしすぎたりしているのも本当は分かってるんだよね。でも弱いから、誰かのせいにせずにはおれない。
舞台の上にいる人、余すことなく自分の気持ちとそれぞれリンクするところがあって滲みたなぁ。
もちろんそれを伝えるだけの歌唱力とか演技があってこそなんだろうけど、私が観た稲田さん&小野田のコンビは「かわいい」感じがしてほんっと微笑ましかった。

龍ちゃん、大人になったなぁって思った。
キスしたときは「まだ早いんでないかい」とか思ったけど、でもちゃんとナヨンを包み込む包容力があった。それで、びっくりした。
去年、犬だったり蓑虫(違)だったり割と人外って言うか、エキセントリックな役が多かったからかな。等身大の「人」を演じている龍ちゃんがすごく大人に見えてなんか感動した。
それまでもBDイベやクリスマスライブで、ハタチになると変わるもんだな〜なんて思ってたけど、また一段成長したみたい。って書くとえらそうだけど、なんだろう、うん、龍ちゃんから包容力を感じるとは思ってなかったからびっくりして嬉しくなったんだ。
歌も、「きれいだね」ってナヨンのことを歌うのがすごーく素敵で、優しくて。ああ、ソロンゴは本当にナヨンが好きなんだな、恋しちゃったんだなって伝わってきた。
工場長に裏切られて、大家さんに罵られて、傷ついて、耐えてるソロンゴはとても痛々しかったけど、その悔しさや憤りを堪えて歯を食いしばっている小野田ソロンゴがとても男らしく見えた。
耐えることは逃げる事じゃなく、戦っているって事なんだって思った。私はちょっと自分を反省した。

最後に見たみんなの笑顔がずっと続けばいいな。
私も、ぶつぶつ言ってないで頑張らないとな。
久々、元気だけじゃなく、前向きになれる気持ちをもらえた作品でした。
8月に再々演があるようだけど、こちらはまたキャストが変わるのかな?
キャストが変わっても素敵な内容に変わりはないので、今回見てない方がいたら観てみてはいかがでしょうか。
きっと、職場でつらいつらいと言ってる事を分かち合って、それを昇華できると思います。