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観劇、LIVE覚書

TITANIC the musical    2015.3.14~

TITANIC the musical

2014.3.14〜29 Bunkamura シアターコクーン
2014.4.1〜5 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

企画・制作 梅田芸術劇場
脚本 ピーター・ストーン
作詞/作曲 モーリー・イェストン
演出 トム・サザーランド

CAST
加藤和樹
鈴木綜馬
藤岡正明
戸井勝海
佐藤隆紀
津田英佑
古川雄大
入野自由
矢崎 広
上口耕平
小野田龍之介
栗原英雄
シルビア・グラブ
未来優希
則松亜海
菊地美香
関谷春子
安寿ミラ
佐山陽規
光枝明彦
川口大
須藤香菜

ORCHESTRA
指揮・キーボード 金子浩介
パーカッション  内田真裕子
バイオリン    玉置夏織
ヴィオラ     出口貴子
チェロ      高城昌一
コントラバス   鈴木陽子


人は海に還る・・・また生まれるために


東京、大阪と行ってきました。
東京初日は立ち見も入り、カテコではスタオベから拍手喝采のとてつもない熱気。
それだけこの公演が期待されていたということなんでしょうが、ここ最近ではなかった満員御礼状態に驚いたのなんの。
大阪公演も、どうしても見たくて休みを取って平日の当日券アタックしたのですがゲットならず・・・。後で増やせばいいかなどと暢気に思っていた数ヶ月前の自分をぶん殴りたい。
それでも、それだけの人気公演を複数回見れたのは幸いですよね・・・ええ。

さて。以下、いつも通りの私的感想文です。

新演出版ということでしたが前公演を観ていないのでどの辺がどう変わったのかはわかりませんが、とにかく素晴らしいの一言に尽きる今公演。
まず客席に入って驚いたのが、既に舞台上でアンドリュース加藤さんの一人芝居が始まっていること。
机に向かい、設計図を書いているんでしょうか。時々ノートや本を開いては書き加えたり線を引いたり。お茶を飲んで、考え込んだろ、想いを馳せるように遠くを見たり。実に様々。
私が見ただけでも同じ事をしているようには見えなかったので、毎回違うニュアンスで、その時々を演じられていたのかな。
初回にそれを見た時は今まさにタイタニックを作っている最中なのだろうかと、そんな気持ちで演技を見つめていましたが、最後まで見た後は、海の底で後悔と自責に今度こそ沈まない船「タイタニック」を作り出そうとしているようにも見えました。
けれど、その表情、振る舞いはとても穏やかで、沈みゆく中で見せた狂気の一片もなかったのですが・・・

タイタニックと言えば映画のラブストーリーが真っ先に浮かぶのですが、このミュージカル タイタニックは乗船した人々の生き様が描かれた群像劇でとても観やすく、そして心を添う事のできる物語でした。
加藤さん、鈴木さん、光枝さん、津田さんの四名以外はメインとなる役の他にも扮装を変え、クルー、客室係、一等客から三等客まで幅広く演じていて、そこには着る物が違うだけでみんな同じ人間なんだというメッセージがこめられていたそうです。
舞台で群像劇というのもどう表現されるのかなと楽しみにしてた所ですが、とても分かり易く、けど安易ではなく、見る度に新しい見方や発見がありました。
一組の情熱的な恋物語に興味はわかないんだけど、こういう風に色んなカップルのお話が周囲の状況とあわさって展開されていくと見れる不思議。
出会ったばかりのジムとケイト
これから夫婦になろうとしているキャロラインとチャールズ
夫婦としての在り方を模索しているアリスとエドガー
40年連れ添い固い絆で結ばれているストラウス夫妻
四組のそれぞれに年代が違う恋人と夫婦達。
互いの愛情が通い合うまでがこの四組それぞれの話で紡がれていて、ストラウス夫妻にも他の三組のような時代があって此処まで来たんだろうなと想像させられた。
出会って、ぶつかり合って、疑心暗鬼になったりもして、それでも寄り添って、お互いを愛してきたからアイダは最後をイシドールと共にすることを選び、イシドールも彼女の気持ちを受け入れることが出来たのかな。
最後、2人で歌う「今でも」には心が震えました。
でもね。理想はイシドール夫妻だけど、私が一番好きになったのはビーン夫妻なのです。
一等客室の人たちに憧れを抱き、少しでもお近づきになろうと奮闘するアリスは滑稽ではあったけど、とても愛らしくて憎めなかった。
自分達に似合いなのは二等だよ、彼らと同じにはなれないと諭す夫にこのままじゃ嫌、満足できないやと叫ぶ姿さえ、なぜか愛しいと感じた。
我が儘で傲慢で欲深いと思ってもいいような振る舞いなのに、彼女にはそういったことを感じなかった。
嬉しかったのは、エドガーがそんな彼女の手をとってくれたこと。
夜のシガーラウンジ(?)で1人「新世界」に浸る彼女はそれまでの覇気が少し薄れていたように見えたんだ。そこにエッチスに案内されたエドガーが現れて、また彼女を責める?喧嘩になっちゃう?と思ったら、彼女の手をとり踊り出した。
あの時の安堵感。なんだろう、すごく嬉しかった。
あ、この夫婦は、良い関係を作り上げていけるだろうなって、思った。
そうして誰かに心を添わせたら、とてつもなく哀しくなるんだけど、この2人が喧嘩したまま別れることにならずにすんだのが救い。救いではないんだけど、私にとっては少しの、ほんの少しの救いです。

女性のコミックリリーフはアリスだったけど、男性のコミックリリーフはエッチスさんでした。
戸井さんはやっぱりお上手だなぁと思わずにはいられない、エッチスさんの妙技の数々。
一幕はまだ和やかだけど、二幕の全力シリアス展開の中、立ち居振る舞いやちょっとしたセリフのニュアンスでほっとさせてくれるエッチスさんに何度救われたか。
沈み行く船の中で自分に出来る事を考え、残った人々にシャンパンを振る舞う姿に職業意識の高さを感じました。

エッチスだけでなく、タイタニックのクルーはみんなプロフェッショナルだった。
ライトーラーからエッチスに、エッチスから客室係に。おそらく今の船の現状が伝達されたんだろうけど、誰一人パニックにならず、指示通りに動いて客達の不安を煽ることはなかった。
その一連の動きが、現状の説明を求め、揺らぐ一等客達のすぐ傍で行われていて、それも彼らの意識の高さをより際立たせて見せていた。
そんな自分の仕事に「誇り」を持ってる彼らの姿を目の当たりにしたからこそ、三等客室から上階への開放の指示を船長からもらえずに動くしかなかったライトーラーの心情を思うとキュッと喉が窄まった。
悔しかっただろう。憤りもあっただろう。でも、自分の判断で動いてパニックが起こったらと言う不安もあったかもしれない。
初日、1回見た時は、三等客室から上階へのドアを施錠したこと、彼らへの説明と救出を後回しにし、「神」の救いなんて空虚な事を口にした船長とアンドリュースに腹が立って仕方がなかった。もちろんライトーラーにも。
どうして?なぜ自分の判断で動けないの?と悔しくて、腹立たしくて、とても悲しかった。
でも回を重ねて、見ているだけの私には分からなかったライトーラーの気持ちが少し汲み取れて、彼の悔しさ、無念が流れ込んできて、やるせなくなった。
プロ意識が高ければ高いほど、一人の情ある人間としてあの状況下で動かなければならない辛さがあっただろう。
千秋楽のライトーラーからはそれまで以上にそういった感情が滲み出ていて、初日に責めてしまった分、見ていてとても苦しかった。

見所、と言うと大げさだけど、好きなシーンの一つ機関士と通信士の場面。
故郷にいる恋人に電報で想いを伝えたい機関士バレット。
彼は何かが変わるかもしれないと期待をもって乗船したけれど、暗い炭鉱から熱い機関室に場所が変わっただけで自分達の待遇は何一つ変わらない。
階級社会の不公平を怒りをもって歌うバレットの歌も迫力だったけど、このブライドに頼んで彼女に想いを伝える歌がとても素敵だった。
ホワイトカラーとブルーカラー、対照的な二人がお互いに好印象を抱きながら話をするのも話中によく出てくる「新しい時代」の匂いがして面白く、バレットの恋人への想いと、ブライドの人付き合いが苦手で通信士になったという仕事への愛とか誇りとか楽しさが詰まった歌は数ある楽曲の中でも一番の楽しさだった。
ブライドを演じる上口さんを初めて見たのはABZで、その後はCS9th。他にもたくさんの舞台に出ているのは知っていたけど、私の中では何となくダンサーさんのイメージが強かった中、今回久々に観てすっかりミュージカル俳優になっていて驚きました。歌もお芝居もたくさん勉強したんだろうなぁなんて上から目線かな?
大型タイトルにも名前が上がってるから、また観れる機会がたくさんできそうです。

そしてもう一つ好きな場面。OPから始まる「征け、タイタニック」まで。
千秋楽まで”一番”好きな場面は機関士と通信士のところだったんだけど、千秋楽でひっくり返りました。
初日はタイタニックの結末を知っているだけに、船を見上げ、その姿に夢と希望を重ねるクルーや常客の姿が悲しくなったけれど、最後まで観て、繰り返した時、彼ら1人1人が愛おしくてたまらなくなった。
千秋楽、まさかここで涙が止まらなくなるとは思わなくてびっくりした。
昨日観たときはまだじわっとくる位だったのに、今日は、もう、ダメ。
千秋楽だからと感傷的になる質ではないのに、もう、どうしたのかな〜って自分でもおかしかった。
いたずらに積み荷からオレンジを掠めたベル・ボーイ、咎めながらも見逃してくれたピットマン。
素晴らしい船と仕事への誇りに胸をはるマードックとライトーラー。
それぞれの想い胸に故郷を飛び出した三人のケイト。
一等客も二等客も、客室係も、みんな、みんな晴れ晴れとした笑顔でタイタニックに乗船する喜びに溢れていた。
彼らの物語を知ってしまったから、彼らが愛おしくてたまらなくなっていた。

本当に素敵な舞台。
何度見ても飽きることなく、益々その世界に、人々の魅力にはまっていった。
また彼らに会いたい。
こんな素晴らしい舞台に小野田さんが立っているのがファンの端くれながらとても嬉しく、誇らしい。
ライトーラーもアスター大佐も目立った出番はないのだけど、しっかりとタイタニックの漕ぎ手としてそこに在った。
さざ波と歌うたゆたう波のようなハーモニーはこれから起こる悲劇を予兆させるものだったけど、耳に優しく今も残っている。
三等客のアイリッシュ達に、BGのダニエル達の姿が浮かんだのは思いがけないことだったけど、あの公演を観ていたからケイト達の想いを、運命を、深く重く受け止めることができた。
全て、小野田龍之介という俳優が私にもたらしてくれた大切な宝物。
そしてまたひとつ宝物が増えた。
すぐにでもまた彼らに会いたいけれど、それは叶わないことだから、今はいつかの再演を心より願うばかりです。