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観劇、LIVE覚書

The Beautiful Game 20140208

The Beautiful Game

新国立劇場 小劇場
2014.01.31〜02.11

音楽:アンドリュー・ロイド=ウェバー
脚本・作詞:ベン・エルトン
演出:藤田俊太郎

北アイルランドの貧しい街ベルファースト。
1969年のベルファーストはIRA北アイルランドの独立を訴える過激派)の活動が盛んな街でもあった。
「ザ・ビューティフル・ゲーム」は、この町の高校のサッカーチームの少年達とそのガールフレンド達の物語。
彼らはテロに巻き込まれるなど、度重なる危険や苦悩の末、ついに栄光をつかむ。
しかしサッカーチーム優勝パーティの後、仲間が過激派に殺される。
そしてIRAに参加する者や、そのIRAの友人に誘われ、結果的にテロの手助けをしてしまう者・・・。
この貧しい、危険な町から出て行きたがる者。
それでもここは自分達の故郷、自分達の国だからここで暮らしたい・・・という者。
出来れば、平和に・・・。
(パンフレットより)


以下、いつも通りの個人的な感想です。

雪の東京はいつもより静かな気がして、雑念無くお話に心を傾けて観ることが出来たような気がします。
観劇前は難しい、歴史、紛争、宗教がらみのお話なのかなと構えてたんですが、始まった途端に肩から力が抜けました。
こういう言い方があってるのかどうか分かりませんが、青春群像劇っぽいなって思った。
舞台を挟んで向かい合う客席はステージに立つ役者さんと同じ目線だからか、その息づかいも生々しく。彼らの喜びや悲しみ、そして争いの場面では恐怖がストレートに伝わってきた。
高低差のある客席と舞台、真正面に観るどこか別世界の舞台上だとこんなに感情を揺さぶられることはなかったんじゃないかな。
テロの場面は本当に怖くて、悲鳴、銃声、すぐ横を駆け抜けていく足音。そんな音と影に取り巻かれて、自分自身がそこに投げ込まれたような錯覚をして震え上がり涙ぐんでしまったほど。
その分、楽しい時は本当に楽しくて、喜びを分かち合っている気持ちになれたんだけどね。
龍ちゃんが演じていたダニエルは、盗んだ車の部品や麻薬の売買で生計をたてている男の子。
でも、悪びれたところが無くて、ふざけては周りを笑わせているようなムードメーカー。同じくのんびり屋で個性的なジンジャーとも仲よさげにしていて、根っからの悪人って感じじゃなかった。
だから、盗みに夢中で試合をすっぽかしたりしてもチームから追い出されたりしなかったのかな。
時々見せる影もあったけど、どす黒い物ではなくて哀愁っていったらいいのかな。普段とは違う、別の顔のようなそれに役の年齢よりも大人に見えた。
そんなダニエルを、私は裏主役・・・と感じたんだけどどうなのかな。
ジョンは幸福と栄光を手にする直前でそれを奪い取られたけど、メアリーの想いが彼を引き留めた。
ダニエルは幸せに手を伸ばそうとした直前でやっぱり全てを奪い取られた。ダニエルを家まで送っていったあと、テロリストに拉致されて殺されてしまったジンジャーのことを彼が悔やまなかったとは思えないんだ。
メアリーの事だってずっと片思いしてたから、ジョンがいなくなった時に力になろうとしたんじゃないかな。勿論そこにつけいろうとする狡さや下心はあっただろうけど、全然それがいやらしく感じられなかったんだよね。
だから、最後の最後にダニエルに罪をなすりつけたトーマスを私は今でも恨んでいます。
トーマスも、自分の町を、国を思ってIRAに入隊したんだろうけど、それってどこまでその気持ちを純粋に保ってられたんだろうって思う。
少なくともジョンを呼び寄せた時点で、彼の頭の中ではジョンを仲間に引き入れる計画が立てられていたわけで。その中には少なからず自分が生き延びて行くための策も含まれているわけで。
チームで一緒にやっていた頃から彼はプロテスタントのデルに差別的で攻撃的な言葉を浴びせていたけど(これはクリスティン絡みの嫉妬もあった気がする)、ジョンや他の仲間には砕けた笑顔を見せていた。
なのに何でかなぁ。って考えてもぜんぜん分からない。
最後の最後でトーマス自身も自分ではどうしようもない所に追い詰められてたんだなって分かったけど、それでも分からないし許せない。
好きな人の前で、彼女の恋人を裏切った濡れ衣をきせられて両足の自由を奪われたダニエルの気持ちを思うと悲しくなるんです。今でもあの悲鳴が耳に蘇るんです。
ダニエルの「その後」はないけど、あれ以上つらい目にあってないことを望む。
救われたのは、ジョンが自分を売ったのはダニエルじゃないって言い切ってくれたこと。めっちゃ嬉しかったし、よかったーってほっとした。
それにしても、馬場さんはすごい役者さんになってきたね。
彼を最後に観たのはモモで、その後ここまで観ていなかったので、その存在感の大きさに驚きました。
ジョンって男の子の優しさや鼻持ちならないところ、思春期のドキドキややっと実った彼女との結婚。
そんな明るく自信にあふれていた少年時代から、テロリストの疑いをかけられて、長い間刑務所に入れられた青年への変貌を見事に演じていた。
メアリーと部室でいるところを神父様に見つかりそうになって慌てたり、彼女を好きなのに素直になれなくて減らず口ばかり叩くとこはコミカルで面白かったし、結婚式を終えた初夜のシーンは童貞なんだけどどうしよう、処女なんだけどどうしようって「初めて」に挑む二人の感情が可愛くて、そしてめちゃくちゃロマンチックだった。
白い布が波打つ舞台の中央で、同じ白い衣装の二人が歌う愛の歌がステキだった。
ここでもセンターステージだからこその見栄えで、BGブログに書かれていたことに成る程なーってなった。
演出の藤田さんてすごくロマンチストな方なのかなって事も。
一幕の最後、チームの優勝に沸く中で実りかけたジンジャーとベルナデットの恋の様子もすごく可愛かった。
超奥手なジンジャーにベルナデットの方から勇気を振り絞って接近していくその様子や、それを羨ましそうにじとーっと観ているダニエル。そのダニエルの髪をひっつかんで二人から引き離す神父様。
マーガレットあたりに連載されてそうなラブコメディがそこにありました。
そう、「少女漫画」の世界。
紛争とか差別とか生臭いものが充満しているのに、観ているものは少女漫画の透き通った世界で、ソコここに幸せの種が芽吹いている。
踏みにじられて無残に散ってしまったものもあったけど、力強く根を張って成長していく彼らは透明できらきらと光が溢れていた。
だから小難しい事はまずおいて、彼らの物語を感じられたのかな。
前演出verはどうだったんだろう。このBGって舞台自体が青春物ってくくりになるのかな。
それでも観ている間は簡単に奪いさられる命や差別的な発言に心が苦しくなることも多くあって、その象徴としてやっぱりトーマスが憎くてしょうがない。
ここまで思わせるトーマスも、それを演じたマサもすごいと思うけど。ね。
始まってすぐにチーム全員で写真を撮るところは、最初が正面で、ラストが反対側、つまり私の側からは背中を見るような形になっていました。
これもセンターステージならではの見せ方だなって。
私側から見ると、彼らの物語が始まるスタート地点がそこにあって、ラストの背中は過ぎ去ってしまった彼らの過去を見ているようだった。
その最後のシーンには円陣くんで神父様の言葉を聞いてる所からジョンの姿が無く、彼がメアリーの言葉通り死んでしまったからいないのだろうかと考えると寂しくなった。
これ、逆側から観てたらどんな風にみえてたのかな。
そこに居ないからこそ、ジョンが帰ってきた時の気持ちの高揚ったらなかったんだけど。
見せ方も何もかもすごく工夫されていたんだなって、見終わって大分経ってから気がついたりして、もっと違う視点でも見たかった作品。
一幕も二幕も自然と涙が溢れてきて、見終わった後は清々しい気分だった。
再演希望。超希望。絶対、オリジナルキャストでね。