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観劇、LIVE覚書

二都物語  20130811

二都物語 A TALE OF TWO CITIES

帝国劇場
2013.07.18〜08.26

原作:チャールズ・ディケンズ
脚本・作詞・作曲:ジル・サントリエロ
追加音楽:フランク・ワイルドホーン
編曲:エドワード・B・ケッセル
翻訳・演出:鵜山仁

シドニー・カーン   井上芳雄
チャールズ・ダーニー 浦井健治
ルーシー・マネット  すみれ
マダム・ドファルジュ 濱田めぐみ
ドファルジュ     橋本さとし


これは僕が今までしてきた何よりも、
ずっとずっと良いことなんだ。
この先には、僕が今まで知らなかった、
ずっとずっと素晴らしい安らぎがある。
(パンフレットより抜粋)


初めての帝国劇場。
一歩入った瞬間、遊園地みたいでワクワクしました。
いつも通り、超個人的な感想です。
フランス革命レミゼとベルばらでしか知りません(笑)
がっつりネタバレしてますよ!!

フランス革命が絡む話、粗筋を読んでも重そうだな〜と覚悟して行ったのですが、美しい音楽と歌に最後は透き通った気持ちになれました。
また大好きな作品が一つ増えた!

物語はドクター・マネットがバスティーユに送られる所から、成長した娘、ルーシーとの再会。
そしてパリからロンドンへの船旅の最中にチャールズと出会い。彼にかかったスパイ疑惑を晴らすために登場したのがシドニー・カーンと主要人物の紹介と同時にかなり駆け足な感じがしたけど、それも見終わってみればで観劇中は気にならなかった。
ほんわかラブコメな雰囲気が漂うロンドンと、どんどん逼迫していくフランスの緩急が効果的で、時間を感じる事無く物語にのめり込めたかな。
ルーシー役のすみれさんはバラエティの印象が強くて、失礼ながらちょっとどうなのかなって思うところもあったんだけど、観て、ほんとすんませんでしたと心から思った。
まずスタイル良し、顔良し、で見た目クリアなところに、歌もすごく声が出ててよかった!
井上さんや浦井さんと歌う時でも遜色なく聞けて(って偉そうですが、そんなに耳は良くありません)、特に井上さんと声の相性いいのかなーって感じた。
そんで、すみれさん独特のキャラがかわいいんだ。
お人好しで世間知らずのお嬢様、愛情深い女性。そんなルーシーはバラエティ番組で見る天真爛漫なすみれさんと重なって、すごくはまってたように思う。
時々、日本語の発言が甘くなるんだけど、それが若い頃のルーシーだと彼女の幼さの発露のように聞こえて気にならなかった。
二幕でチャールズの妻となり、小さなルーシーの母親となってからは、聞き慣れたのかその訛りも気にならないようになっていた。
バスティーユに捕らわれたチャールズを想って行かないでと歌い捧げる所は胸がキュッとなった。
それを、隠れてみているシドニーも切なくてね・・・
って、そう言えば。私最初はルーシーはシドニーに気があるんだと想ってたんだ!
舟で出会った親切な人チャールズより、どこか影のあるシドニーに惹かれるのは女のサガよね。うんうん。なんつって観てたのに、まさかの!まさかの!!!
クリスマスパーティでチャールズが拗ねて(知らない間にシドニーまで招待されていたから)庭(?)に隠れているところに彼女が迎えに来てからのやりとりは、「え?おいおいおい?」の連続でした。
プロポーズして、どうして告白してくれないの、私もう21よ?と歌う彼女は年相応にチャーミングで、恋する女の子だった。
それに対してもだもだじたばたやってる浦井チャールズは、浦井さん独特のあのぽややんとした雰囲気が十二分に出ていて、まーなんてもどかしい!って感じ。
でも、私ここでもまだ「まさか」で、浦井チャールズはふられると想ってたんだよね〜。
だってさ、だってさ。この前夜。ミサの帰りにシドニーと会った時、明日のクリスマスパーティに絶対来てねって誘うんだぜ。しかも自分からもう少し話したいみたいなそぶりで!
それまでも、チャールズの裁判で会ってから彼女のことが気になっていたシドニーがその気にならないわけないやん!!!
もう、このシーン大好きなんだけど。
明日のクリスマスパーティもいらしてね、絶対来てねと念を押して帰ったルーシーに、それまで見えてなかった世界がぱーっと開いて驚くシドニーのかわいさったらなかった!
「なんだ、この星は!どっから出てきたんだ!」って、まっくらだった夜空にきらきらきら〜〜〜〜って星が一杯瞬いて。
シドニーの驚きとともに、世界がきらめいて、色づいて。すっごく素敵だった。
そして、この星空がラストに繋がるなんて思いもしなかったから、最後はもう涙腺崩壊しちゃうんだけど。
それまで殆ど詐欺やん?って感じで違法すれすれな情報操作(?)で裁判を勝ち抜けてきたシドニー
居酒屋を我が家と呼び、娼婦達を妹と呼び、どうも父母を憎んでいるようなんだけど、彼の過去はあまり語られなかった。
ルーシーが言うように、チャールズが怒ったように、人からいい加減に見られる事を選んでおきながら、オッソロしく頭がキレるシドニーは、ルーシーとチャールズに出会うまで本当に孤独だったんだと思う。
でも、んなやけっぱちですてっぱちな彼だから、ジェリーやバーサッドと上手くやれたんじゃないかなって思う。
特にバーサッドとは「なか〜ま!」と意気投合する場面も数度。それは全てシドニーの計算の上で、バーサッドが騙されてるんだけど、ただ騙すだけならバーサッドは見破ってたと思うんだ。
どこか彼の中に共感出来る部分があるから本当に信じたし、最後は冗談じゃないと思いながらも力を貸してくれたんじゃないかな。
バーサッドが言った「アンタと俺が同じ所に行くとは思えない」ってセリフ、バーサッドは自分の事も、シドニーのこともよく分かってたと思う。
そんでそんな孤独なシドニーに期待させておいて、ほんとにチャールズが好きでしたーってそりゃないぜベイベー状態だったクリスマス。
チャールズと入れ替わりにやってきたシドニーに、ルーシーが贈ったクリスマスプレゼントはスカーフ。
「これは貴方の主義に反するだろうけど」と、自分を大切にしないシドニーに、スカーフをすることで少しでも自分を大切にして欲しいからって。
なに、このトドメ・・・。と、戦きながら観た。ルーシーにイチミリも悪気がない分、そんで、この小悪魔が!と言いたくならないすみれルーシーのキャラなだけに、シドニーが気の毒で仕方がなかった!
スカーフの代わりに受け取って欲しい物があるって、おそらく三十路超えてる男がもじもじしながらほっぺたにちゅーって!!!
きゃーってなったわ!きゃーーーってなったわ!!
私だったら絶対チャールズよりシドニーだよルーシーーー!って自分の部屋なら転がり回って悶えてた所でした。
その後、チャールズにプロポーズされて、断るわけナイよねって流れのあの気まずさ。
でもシドニーは戦わずして恋の最前線から去ったよ・・・。たたかおうぜ、シドニー

そんなリボンコミック並みの少女漫画的展開を見せているロンドンの一方で、パリはもうむちゃくちゃやった。
チャールズの叔父、テヴレモンド公爵の無双っぷり。
舞台装置が真ん中におかれた二階建ての回転部分と、四枚の移動する巨大な板で構築されてるんですが、真っ赤に塗られた板に写し出される車輪と馬の足。
巨大なそれに悲鳴を上げて逃げ惑う市民。
鬱屈とした市民を統括?しているのが、ルーシーの父を匿っていたドファルジュ夫妻なんだけど、この夫婦がパリ側の主人公と言ってもいいくらい大きな物を抱えていた。
度重なる公爵の無体。
脹れあがる不満をドファルジュはまだその時じゃないと押さえつけていたのは、妻の為だったんだなって最後の最後に分かって切なかった。
でも、子どもが公爵の馬車に轢き殺されたことで、市民の怒りが爆発。
もう誰にも止められず、とうとうフランス革命の火種となって弾ける。
アンサンブルの迫力がとにかくすごい。
大型ミュージカル観に行く度に、メインキャストよりアンサンブルに圧倒されることの方が多いのはもう当たり前になってきてる。
今回、民衆、市民っていう個が寄り集まって、より強大な「個」になっていく。
赤く血塗られた板の上に踊る影すら生きているようで恐かった。


二幕始めは悪趣味極まりない。
アントワネットとルイを野次る見世物に嗤い、憎悪をぶつけ、正義を叫ぶ巨大な「個」となった市民からは人のおぞましさ、醜さしか感じられず、気持ちが悪くなった。
虐げられ、圧政に苦しんできた彼らの不満が爆発したとは言え、おそこには上手く貴族に取り入って美味しい思いをしていたバーサッドのような人物もいるわけで、全てが正義ではなkったんだよね。
だから、無実の罪で投獄され、処刑される人もいたわけだ。
完全なる正義ってないのだなって改めて思った。
勢いのままに、流れ着くところまで濁流となって全てを奪わないと気がすまないところまできてたんだ。
なんかそれを観ていて、今の日本は上手いこと国民を飼い慣らしてるよなってそんな事を考えた。
不満はあるけど、隣を観れば自分とそう変わりない。
セレブだ何だって言われてる人達は上手いことやって儲けて、でも、何となくテレビの世界の話で実感わかない。
さすがに脱税とか不正献金とかニュースで出るとふざけんなって思うけど、直接自分の命に関わる事じゃないから、過ぎ去ると忘れちゃうんだよね。
暴動起こすほど餓えてはいない。
事件起こせば、累を及ぼす人の事が頭を掠める。
上手くいきっこないって、まず否定から入る。
うん。ま、それはちょっと置いといて。
とにかく、一度堰を切った流れは止められず、その流れはとうとうロンドンにいるチャールズまで巻き込むことになった。
公爵の所に置いてきた部下(?)から、チャールズが来てくれないと殺されてしまうと助けを請う手紙が舞い込む。
ルーシーと家庭をもって、かわいい娘にも恵まれて。何でわざわざそんな危険なところに行くのかって、その気持ちが分からないんだけど、でもそれがチャールズの良いところなんだろう。
ルーシー達には本当の事は告げずパリに行ってしまったチャールズはやはり囚われの身に。

この時の家族団らんにシドニーがいることが何だか嬉しくてほっとした。
彼の首にひっかけられている、ルーシーからのプレゼントが、今の彼の生活を語っていた。
この家族と一緒なら、彼は自分を大切に出来てるんだなって。温かい場所にいるんだなって。
でも、小さなルーシーを寝かしつけるのがシドニーの役目で、長い話をしたら恐いルーシーママに怒られたりするんだろうなって想像したら可笑しくて、ちょっと切ない。
小さなルーシーのおしゃまな冗談は日替わりだったようで、私が観たのは酔っぱらったシドニーのマネをするルーシー。
「俺のマネはよせ」って照れるシドニーにきゅん。なんか小さいルーシーが成長するのを待って結婚すればいいって思ってしまった。
いいじゃんね、二世代光源氏計画。
ま、そんな暢気な話ではないんですが。

囚われの身となったチャールズを助けるべく家族全員でパリに乗り込むマネット一家。
なぜ一家で乗り込む・・・幼子連れて。危険だっつってんだろパリ!って思った事は致し方ないと思います。
チャールズの裁判(と呼べるほど公平な物ではない)で、ようやくマダム・ドファルジュの正体が明らかに。
彼女はチャールズの父と叔父から辱めをうけ殺された姉と、姉を助けようとして諸共命を落とした兄を持つ一家の生き残りだったのです。
一幕冒頭でチャールズが叔父のやり方に反発し、一族の名を貶めたと罵っていたのでチャールズパパはまともな領主様だったのかなって思ってたんですが、違った。
貴族腐りきってた。
無念の死を遂げた姉弟を看取ったのがドクター・マネットで、彼は金銭で彼らの罪に口を噤むことを拒み、無実の罪でバスティーユに投獄され、17年の長きにわたって囚われとなっていたのでした。
そしてやはり冒頭、ドクターがバスティーユでの手紙の話にやけにドファルジュが食いついてるなって思ったら、革命のどさくさでバスティーユに乗り込んだ彼らが真っ先に探したのはやはりその手紙だった。
そこに記されていたのはテヴレモンド一族の犯した罪。
姉と兄を殺されたマダム・ドファルジュはそれを証拠に、一度はドクターの説得で無実になりかけたチャールズを再び追い詰める。
悲しいのは、彼女がもう自分でもどうしていいか分からないくらい憎しみに追い詰められていたこと。
ずっとずっと、兄姉の敵を討つことだけを考えて生きてたんだろう。
チャールズだけじゃなく、ルーシーや小さなルーシーまで殺して、テヴレモンドの血を絶やさなくてはならないと叫ぶ彼女を、夫のドファルジュは必死で止めるけど、もう彼女は止まれない流れに乗ってしまってたんだ。
市民が巨大な個となってフランスを飲み込んだみたいに、彼女はその巨大な流れに、自分の中で育ててきた憎しみってバケモノに飲まれてしまってた。
命を落とした後、ドファルジュの腕にだかれながらも虚空に銃口を向けた彼女は死の間際まで憎しみを手放せなかったんだって思うととても辛い。

バスティーユに投獄され、処刑の日を待つのみのチャールズ。
嘆き悲しむルーシーを救うために、決心したシドニー
夢が叶うなら〜さよならは言わないで、の流れが、それまでのマダムの過去が凄惨すぎただけに、滲みた。
小さなルーシーとシドニー、チャールズの歌も。
シドニーが考えている事がこの時には分かってしまっていたから、彼のために祈っているルーシーが、この後どれだけ傷つくだろうって考えるとちょっともう・・・!って。
このテの話で大団円はあり得ないって分かってても願ってしまった。
監獄で彼に出会ったお針子が、死の恐怖から抜け出せたのは、彼の覚悟の大きさだったのかな。
一度も不安な顔は見せなかった。
凛として、誇らしげに。
一度失った命がまた蘇るって何の事?どういう意味?って考えてて、それってルーシーへの愛ってことなのかなってその時に漸く分かった気がした。
ただ彼女を諦めて一緒に過ごしてたわけじゃないんだな。彼の中で一度その愛は死んでたのかって、なんか、すごく衝撃的だった。
あの星空を背にギロチン台を上るシドニーはすごくさっぱりした顔をしていて、活き活きしていたのも印象的。
そして、あの夜にみた星空が彼を包み込むラストシーンは、切ないけれど、胸がすーっと透き通っていく心地よさを感じた。



粗筋をなぞったような感想になっちゃった。
ただ、愛の物語っていう感じはあまりしなかったのは、フランス革命とマダム・ドファルジュと、ずっしりした存在があったからかな。
ロンドンとパリ、ルーシー一家とドファルジュ夫妻。
家族を奪われ全てを奪い尽くそうとしたマダムと、家族を奪われ、それでも守ろうと必死になったルーシーとで何が違うんだろうって思う。
マダムには取り返すチャンスももらえなかったけど、ドファルジュとの家庭でも彼女の失われた物は埋められなかったのかな。
他にも要因は一杯あっただろうけど。

個人的にバーサッドが好き。
小狡くて、どこか憎めなくて。
きっと彼はいつか市民に素性がばれて捌かれると思う。
でも、もしかしたら上手く逃げおおせて、結構、少しだけ長生きするかもしれない。
出来るなら、シドニーと同じ所に行って欲しい。
最後の最後にそんな生き方(死に方?)を選ぶ人だと良いなって、コレは夢か妄想か・・・

もうすぐこの舞台も終わってしまうのねと思うと、もう一度、二度、観たかったと悔しくて仕方ない。
まだ観劇の熱で頭が纏まっていないのもあるけど、見逃している所もたくさんありそうで、もっと一杯、色んな事を感じたかった。
もう一度、シドニーとあの星空を観たいな。