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観劇、LIVE覚書

ヴィラ・グランデ青山〜返り討ちの日曜日〜  20111202

ヴィラ・グランデ青山〜返り討ちの日曜日〜

2011.12.02 サンケイホールブリーゼ

作・演出:倉持裕
企画・制作:東宝、キューブ

出演
竹中直人
生瀬勝久
山田優
谷村美月
松下洸平
田口浩正

〜story〜
20年前に建てられた瀟洒なマンションの中庭。
言葉少なに語り合う二人の中年男。やがて一人が打ち明ける。
「こないださ……娘の元カレに殺されかけたんだ」
中庭にて、失われた10年、いや20年の申し子を待つ男達の物語


緞帳なしの剥き出しの舞台にはマンションのエントランスとおぼしきセット。
手前が物語が繰り広げられる中庭で、奥にマンションのロビーらしい。ガラス(多分模造)がはめ込まれたドアと大きな窓に区切られた二つの空間は、所を変えてマンションの一室にも変化する。
あれ、本みたいに開いたのかと思ってたけど、冷蔵庫とかあったから奥から引っ張り出した感じなんだわと今これ書いてて気付いた。
仕掛けの多いセットは好き。
ただ気になったのが、上部にせり出してた「Villa grande Aoyama」の文字が刻印されたマンションエントランスにありそうなオブジェ(って言えばいいのかな?)
あれ、二階席から観たら視界遮ってないかな〜とか余計な事考えてしまったわ。

三年ぶりに呼び出された友人(陣野)と三年ぶりに呼び出した民谷からお話は始まります。
倒れて壊れた石膏像を呆然と見守る民谷と陣野。
唐突に「大丈夫?」と問いかける陣野に、ボーゼンて顔で石膏像を見ながら「何が」と返す民谷。
その後も中々かみ合わない応答に苛ついた陣野が「さっき当たっただろ」と倒れた石膏像を指さすと、民谷はようやく理解したのか「ああ」と無事を伝え、更に石膏像に大丈夫か問いかけてるのかと思ったと恍けた返答。
このお芝居に登場する人物(得に民谷と陣野)は常時こんな感じで、中々意思の疎通がままならない。
観客である私たちにはお互いの言いたいことはうっすらわかるんだけど、本人達は噛みあわない会話にイライラしたり、かと思えば勘違いしたまま納得したりしています。
でもそれって私たちの日常会話でもよくあることなんだよね。更にそこにテンポよく突っ込みやボケが加わって笑うタイミングでちゃんと笑える。
さらに言えば、「あ、くる・・・」と予想してしまうともう堪えきれずにクスッと笑ってしまう場面とかもあるんだけど、オチが見えてるコントのようにはならない。気持良く笑って、すぐにまたお芝居に集中できた。

お話自体はすごく単純なようで、すごく複雑。
民谷は娘と元カレの仲裁に入ったら突然ナイフで切りつけられて、それを謝りに来る元カレと二人きりで会うのが怖いから陣野を呼びつけた。
陣野はそれまで三年も口をきかなかった民谷が自分を呼び出した理由を聞いて巻き込むなと怒るが結局民谷より積極的に事件に関わっていこうとする。
そこに、昔、陣野が住んでいた部屋を借りている早坂津弓(この二人はこの時に初めて会った)や民谷の娘、蓮。元カレの友人、日野と、マンション管理人の岡根が絡んでますますややこしくなってくる。
更に名前は頻繁に出てくるものの最後まで姿の見えなかった元カレ鳴川の存在がお話を明るいコメディで終わらせていない。
この元カレに脅える民谷が、彼を友人として過剰なほどに庇う日野へとその怖れを移行させたのは無理もないし、蓮が責任感に燃えて奔走する日野へと好意を持つのも理解出来る。
でもここで被害者である父と、加害者を連れてきた娘の間で感情の齟齬がおこる。
娘は元カレがしでかしたことを通じて父に責められていると思っているし、父は自分を傷つけた元カレに一番近い存在の日野を選んだ娘の心理が理解出来ない。
両方とも「元カレ」を許せないし二度と会いたくないのは同じなのに、最後の最後、日野というキーワードで食い違いが起こる。
でも親子ってそういうもの。と、端から見てると思う。
一番身近な人間だからか、わかり合った気でいると酷いしっぺ返しをくう。一番奥の一番深いところで繋がってるって幻想にとらわれて、裏切られたような気分になるんだよね。
それでも親だから子だからと、他人には使わないだろう言葉で傷つけ合ってしまうっていうのは私の偏見かな。

日野もかなり変わっている。そもそもこの物語は彼がいないと進行しないような気もする。
日野が、「鳴川に謝罪させる」事に拘って民谷家に通うから、父と娘の間に溝ができる。
彼が鳴川に謝罪させると言いながら鳴川を連れ出すことが出来ず、結果、日野が民谷に謝罪するというパターンを何度も繰り返したからだろう。
民谷にしてみれば、日野が鳴川を連れてくると言う度に斬りつけられたことを思い出して恐怖し、緊張し、そして落胆する。
これを何回も繰り返されたらすっごいストレスだし、しかも外野で繰り広げられる陣野と早坂の関係に別のストレスを与えられて煮詰まってしまうのも無理はない。
最終的に追い詰められた民谷は豹変して日野に暴力をふるいそうになるし、日野に対して声を聞くだけで溜まらなく不安になると吐露することになる。
このお芝居の中で唯一ゾッとしたのがこのシーンで、民谷を演じる竹中さんの空気に呑まれた。
それまでフットワーク軽くコミカルなキャラクターだった民谷だから、自失状態の狂気を帯びた迫力はすごかった。
そもそも日野はどうしてそこまで「鳴川」に謝罪させることに執着していたのか。
民谷は「自分の親友が頭のおかしい奴じゃないと信じたい気持ちはわかる」って言ってたけど、本当にそこだけだろうか。
日野は「鳴川」に謝罪させることで、自分自身を正義の代弁者として第三者に認識して欲しいだけなんじゃないのかな。
友人の鳴川はこんな非常識な事をしましたが、僕が説得して謝罪させ、被害者の方とも和解しましたよ。どうです?僕、正しいことしたでしょ?みたいな・・・
それが功を奏して蓮は日野に惹かれたんだろうけど、日野は別にそれを狙ってやった訳じゃない。
民谷にしてみたら迷惑な話なんだけど、民谷にしかそれ(ありがた迷惑ってやつ)は理解出来ないから、第三者から見たらやっぱり日野が良い人に映る可能性の方が大きい。
ただ日野の場合は民谷がもう謝罪を望んでいないこと、今後一切民谷家に関わらないこと、そして自分が蓮とつきあい始めたことを鳴川に告げてぼっこぼこ(そりゃもう包帯ぐるぐる巻きで大変な事)になってたから、それ相応のしっぺ返しは食ってるのでいいのかな。
ちょっとね、日野の事もちょっとだけど分かるの。
私は性悪説支持派(なんて言うとえらそうだけど)なので、気を抜いてるとすっごい性悪で人の事なんて考えちゃいない言動をしてしまうから常に「なるべく常識人に見えるよう」に努めている。
でもそれって人から見ると「良い人ぶってる」って見られるんだ。そうしないととんでもないことになるんだわ〜と嘯きながらも、やっぱりそう言われると傷つくよね。
日野が同じスタンスとは思わないけど、「正しくある自分」を掲げて暴走する日野の姿は、ちょっと前の自分ぽかった。

陣野と早坂と岡根
この三人は外野なんだけど、いろいろやらかしてくれる。
陣野は民谷の旧友らしいが三年も口をきいてもらっていない。その理由も明かされないまま今回の件にまきこまれ、早坂と付き合うようになり、そして最後振られて呆然。何だかいいとこなし。
けっこうな毒舌で芸術家でございなところが鼻につくけど、登場人物の中では蓮に次いでまともな部類のように思う。
身も蓋もない言い方をすれば、ただ女にだらしない、けれど三年口きいてなくても友達に呼ばれたらほいほいきちゃう気の良いおじさんである。
陣野の台詞で痛かったのが「っぽい事をして満足してる連中もいるってことだよ」です。
プロにはならなくていい。むしろなりたくない。それっぽい事をして楽しんでいる自分が好き。それってそのまま今の自分で、なるほどなーと感心した。
一体私は何をしたいんだろうと悶々するときがあるけど、私は「っぽい事」をして楽しんでればいいんだ。だって好きな事を職業にするのは到底つらくて無理だもの。気付かせてくれてありがとう陣野。
あと、「どうして山に登るの、どうせ降りるのに」は名言です。

早坂はOLですと言いながら、元アイドルだったり、今でも本気で歌手を目指してたりと、ボロボロ別の顔が見えてくる。
岡根が写真をやっていることを本職の陣野に告げて写真を見てもらうように手はずしたりなんてのは日野と似ているところがある。
違うのは、良い人である自分。が好きなタイプに見えたとこかな。
岡根の写真をばっさり斬った陣野を恨むような素振りをみせていたから、自分が余計な事をしたとは微塵も思ってなかったんだろう。岡根も満更でもない様子ではあったけど、それでも他人が手をかすべきレベルじゃなかったようだし、やっぱり余計な事だったんだ。
岡根をこき下ろし、元アイドルだった自分を絡められた途端切れて本気を見せてやるって歌い出す。結果的にその歌に惚れた陣野とつき合うようになって、その後は豹変したようにでれでれ。
陣野に他にも彼女がいると知った時には、裏切られたとかよりも、そんな自分を民谷や陣野がバカな女だと笑っているのかと思うと溜まらないと言い放つ。
書いてると勝手だなぁって思うけど、憎めないのは早坂にも感じるところがあるからだ。陣野にコロッといっちゃうところはわからないけど、彼に別の彼女がいることを知った時に嫉妬じゃなく、誰かに笑われてるかもしれないって発想はすごーくよく分かる。
だって、結局彼女も私も自分が大好きなんだ。


岡根は小説家を目指したり写真家を目指したりしながらふらふらしている40すぎた男。冒頭で民谷に「40過ぎてもだめってことは可能性はないってことだろ」と手酷いことを言われているけど、多分本人はそれに気付きつつ見ないようにしている。そしてそんな岡根は早坂と仲が良く、仄かに恋心を抱いていた模様。
早坂が陣野とつきあい始めてから攻撃的になったり、告白したもののふられることを畏れて早坂を避けたりする今時のアラフォーとかに多いタイプ。
民谷に自分の小説や写真を見てもらうのに、どうして彼女の歌を聴かなかったのかと訊かれて、漸く自分がどれだけ気が回らなかったかを知った時のリアクションが面白かった。基本この人も自分大好きタイプだよね。ただ早坂ほどアグレッシブじゃない。
岡根に共感するところはなかったけど、田口さんのキャラクターでどうにも憎めない。ただし、自分の周りにいたら気持悪いからぜったい関わりたくないなぁ。
そういや終盤で5階から飛び降り(?)たのはあれ本人なのかなぁ。いきなりセットの植え込みに上から人が落ちてきたから客席みんなぎょっとしてた。私も思わず「えっ?」って声がでてしまった。
結構な高さだったし、人形かなぁ・・・


この三人が、民谷とは関係のないところでもう一つの物語を展開している。(民谷は早坂に淡い恋心を抱いていたので、こちらの物語でも当事者である)
なんか感想って言うより共感出来るところを探し出すみたいな人物紹介になっちゃったけど、このお芝居はそこが楽しいんじゃないかな。
もの凄く個性的にみえるけど、観てる人の誰もがこの人たちの誰かに、その一部に「あるある」を感じられる。
でもそれだけじゃなくって、存在だけの鳴川と日野に追い詰められた民谷の変貌がちゃんとお話の山場になってる。
演出も面白くて、早坂の部屋と民谷の部屋を同じ空間をつかって表現しているのだけど、照明や立ち位置で区切るのではなく、間取りが一緒というのを利用して同じく浮かんで別のお芝居をしてた。
だから、座っている日野の前に民谷が股間見せつけるように立ったり、話す陣野と民谷の間に日野が割って入ったりと、見ててクスッとしてしまうようなシチュエーションが散りばめられてた。
竹中さんに股間を眼前にして立たれた洸ちゃん大変だっただろうなぁ(笑)
陣野が吉川に迫るシーンでも、それまで壊れて問題になってた冷蔵庫の扉をぱっと開いて二人の姿が見えなくなって暗転。
うまいなぁって思わず唸ってしまうほど。倉持さんの演出作品をまた観てみたいな。

そういや民谷が陣野と口きかなくなった理由って語られなかったんだけど、でも二人の会話の端々から、お互い嫌なことが積み重なって民谷が先に切れたんだろうな〜ってのを想像した。
最後も鳴川がいよいよやってきた!?陣野、早坂にふられる!!でスッパリ終わったので、あの後どーなったんだろーとか鳴川って結局どんな奴なんだろーとか、早坂が鳴川がいる方向睨んでたけど、鳴川呼んだの早坂なのかなーとか(鳴川はアイドル時代の早坂のファンなのです)終わった後も楽しめるっていいよね。